機械式LSDの管理方法を身につけよう! 使い方に関わることを徹底解説

機械式LSDはクルマの特性を大きく変えるパーツであるため、使用上の注意点も数多くあります。LSDは正しく使えなければ性能を発揮できないばかりか、重篤な事故に陥ることもあります。

これから取り付けを検討している方に向けて、機械式LSDを扱ううえでの注意点と正しい使い方を解説します。

機械式LSDは使い方が難しい

機械式LSDはモータースポーツの必須パーツではあるものの、取り付けるだけで速く走れるようになるものではありません。

LSDの特性に合わせた適切なコーナーアプローチや、丁寧なアクセル操作などの使い方を知っておかなければ、かえって遅くなってしまうこともあります。

また、機械式LSDは安全に使用するための管理方法も定められています。LSDの性能を引き出し、正しく取り扱うために機械式LSDの基礎的な使い方を身につけましょう。

正しく取り付けることが最低条件

正しく取り付けることが最低条件

デフはクルマが走行するための重要箇所であり、LSDの取付不備があると重篤な事故に繋がる恐れがあります。

また、機械式LSDの効果を最大限に発揮させるには、車種や用途、コースに合わせた微調整が欠かせません。

そのため取付作業を依頼する業者は、一般の自動車修理工場ではなく、LSDについての正しい知識と技術をもった整備工場やチューニングショップに依頼しましょう。

そういった工場やショップは、いずれかのLSDメーカーの正規代理店であるため、購入・取り付け・調整・メンテナンスまでを一貫してやってもらえます。

もしくは、利用しやすい店舗が取り扱っているメーカーのLSDを購入する選択肢もあります。

LSD装着後は慣らし運転が必要

金属加工品である機械式LSDの使用初期にはどうしても金属粉が過分に発生します。

それを放置すると破損の原因になったり、内部ギアやクラッチ板の摩耗が不均一になり、本来のLSD性能を発揮できなくなる恐れがあります。

機械式LSDを装着したら、まずは入念な慣らし運転を実施しましょう。慣らし運転は取付不備の早期発見の観点でも必須です。

慣らし運転の方法

機械式LSDの慣らし運転は市街地で300~500km走行後、金属粉を排出するためにオイル交換をして完了します。

メーカーによっては再度、300~500km走行後のオイル交換を推奨している場合もあります。ちなみにLSDは直進状態ではほどんど動作しないため、慣らし運転は必ず低速かつ市街地走行でおこなってください。

短時間で慣らし運転を終えたい場合は、8の字旋回でLSDを動作させる方法もあります。

30分程度(周回数にして30〜40週)のゆっくりとした8の字旋回で左右均等に当たり面をつけてからオイル交換をしてください。正確な慣らし運転の方法については、メーカーの取扱説明書に従いましょう。

慣らし運転中は極端なアクセル操作を避け、唐突にLSDをロックさせないように気をつけながら運転することも大切です。

慣らし運転中にチャタリングではない異音や振動がした場合は、すぐに運転を止め、LSDの取り付けをおこなった整備工場で点検をしてもらってください。仕様変更や分解整備後も慣らし運転が必要です。

ドライバーの慣らし運転もしっかりと

機械式LSDの取付後は運転特性が大きく変化するため、ドライバー自信の慣熟訓練も必要です。

とくに雨天時や降雪時など滑りやすい路面を走行する場合は、クルマが思わぬ挙動をする場合があります。

低速走行から徐々に速度を高め、挙動や動作特性を確かめながら、徐々に操作に慣れていくようにしましょう。

デフオイルの温度にも注意

デフオイルの温度にも注意
クラッチ板の摩擦によって動力伝達する機械式LSDはデフの温度が上がりやすく、過剰な温度域での走行はクラッチ板の歪みや焼付きを起こす恐れがあります。

とくにカーボンLSDでは磨材の剥離が起き、LSDの寿命を著しく縮めます。

オイル粘度や品質にもよりますが、デフオイルが良好な潤滑ができる上限温度はおおよそ140〜150℃程度です。

それ以上の油温に達するようであれば、冷却のためにペースを落として走るクーリング走行をおこなってください。また、LSDの状態を保つためにサーキット走行後はオイル交換をするのが一般的な使い方です。

デフの温度は、温度計やサーモシールで知ることができます。

それらを活用して、どれくらいの周回でデフの温度がどれくらい上がるかを把握しておくことが大切です。必要であれば、より耐熱性の高いオイルへの交換や、オイルクーラーの装着で対応しましょう。

暖機運転も必要

機械式LSDの動作時はデフケースに大きな力が加わります。

LSDに限らず冷えた金属は硬く脆いため、極端に大きな力が加わると破損してしまう恐れがあります、機械式LSDを装着したら、デフの暖機運転も習慣づけましょう。

エンジンが温まっても、デフは十分に温まっていない場合があります。とくに気温が低い冬場や、硬いオイルを使用している場合は暖機が不十分では動作が不安定になりがちです。

デフを積極的に効かせるスポーツ走行前には、ゆっくりと熱を行き渡らせるイメージで入念な暖機運転を意識しましょう。

駆動方式や走行シーンごとのLSDの使い方

駆動方式や走行シーンごとのLSDの使い方

LSDの装着することで、駆動方式ごとの走行特性がより顕著に現れたり、操作感覚が激変します。

運転の見直しを迫られることもあるため、それぞれの特性をよく理解しておきましょう。各駆動方式や走行シーンごとの運転特性と注意点を解説します。

FF車での特徴と使い方

FF車(前輪駆動車)にLSDを装着すると、内輪の空転が抑えられるため、本来FFが苦手とする加速しながらの旋回がしやすくなります。

FFには、おもに加速時のみに動作する1WayLSDが好まれ、アクセルオフで内側に曲がりこむ良好な旋回性能を保つことができます。

ただしLSDが効いた状態での旋回加速中にアクセルを戻すと、LSDの効果が途切れて外側に膨らむ動きをする場合がある点には注意が必要です。

また、フロントの強い旋回にリアタイヤが追従しきれず、スピンしてしまうこともあります。とくに直進安定性が低いショートホイールベースのクルマほど特性の変化には注意が必要です。

LSDを装着することで、FFは加速するほどハンドルが直進状態に戻ろうとするため、アクセル操作によってハンドルの重さが極端に変化するトルクステアが発生します。

重くなったハンドルや、唐突に戻るハンドルの力で手首を怪我しないように注意しましょう。

FR車での特徴と使い方

駆動輪であるリアが軽く、アクセル操作でタイヤの接地圧が変化しやすいFR車(後輪駆動車)は、アクセルオンとオフでの大きな挙動変化が特徴です。

そのため、タイヤの接地圧が変化しても安定してクルマを前に押し出してくれる2WayLSDが好まれます。

ただし、押し出される動きが極端に強まるため、プッシュアンダー(プッシング・アンダーステア)が発生して曲がりづらくなったように感じられます。

これを解消するためには、アクセルコントロールやブレーキ操作でフロントタイヤに荷重をかけた状態で操舵するようにしましょう。

また、アクセルを極端に踏み込んで後輪に過剰な駆動力がかかると後両輪が空転して挙動を乱し、スピンを引き起こしやすくなります。

これを抑えるために、適度なアクセル操作と素早いハンドル操作で姿勢を保つ繊細な操作がFRには必須です。これら一連の操作が自在にできるようになるとドリフト走行ができるようになります。

4WD車での特徴と使い方

4WD車(四輪駆動車)はLSDを装着する箇所によってクルマの挙動が変化します。

フロントデフを機械式に変えればFF車のような動きが強まり、リアデフを変えればFR車のような挙動になります。

ただし、どちらに装着しても通常走行では曲がりづらくなったように感じられる傾向にあります。

上手く曲げるためには後輪を滑らせるほどまで走行速度を上げる必要がありますが、速度を上げるほど4WDの曲がりづらい特性もより顕著になるため、クルマがより曲がるポイントを探るような4WD特有の操作が求められます。

4WDを乗りやすく仕上げるには、前後LSDのバランスを感覚的に捉えられるセンスと高いセッティング能力が要求されます。

悪路走行での使い方

機械式LSDはサーキットだけでなく、不整地走行時の走行性能も引き上げるため、雪道のスタック防止にも効果的です。

滑りやすい路面ほどLSDは効果的に働きますが、もちろん注意点もあります。

グラベルラリーでの使い方

雨・雪・土などの上を高速走行するグラベルラリーでは、LSDがあることでクルマは外側に滑りながら前に進むような挙動を示します。

滑りやすい路面を走行する際には、クルマの姿勢を維持しつつ速度を保つ適切なアクセル操作とハンドル操作に加え、滑ることを前提とした走行ライン取りが求められます。

クロスカントリー競技での使い方

駆動輪がロックされる機械式LSDが装着されていると、地面にしっかり接しているタイヤのグリップを使って走行できるようになるためスタックしにくくなります。

とはいえ、あくまでスタックしにくくなるだけで、どのような道でも進めるわけではありません。

雪道やクロスカントリー競技のような悪路の微低速走行では、LSDを効かせつつ、わずかなタイヤグリップを感じ取りながらの繊細なアクセル操作が求められます。

性能を維持する使い方・メンテナンス方法

性能を維持する使い方・メンテナンス方法

機械式LSDは動作する度に摩耗粉が発生するため、走行距離でおおよそ3,000〜5,000kmごとのデフオイル交換が必要です。

また、サーキット走行などの連続高負荷運転後は、その度にオイル交換をすることをおすすめします。

また、機械式LSDは正しく使っていても内部部品の摩耗・劣化により性能が低下していきます。

クラッチ板などの摩耗が限界に達すると当然ながら正常な動作ができないため、定期的に分解して内部部品の交換もしなくてはなりません。

機械式LSDは、街乗り主体の使い方ではおおよそ3万kmごと、競技での使用は最低年1回の分解整備が推奨されています。

安定動作のために、あらかじめクラッチ板に加えておく与圧(イニシャルトルク)は比較的低下しやすいため、動作に違和感を感じるようになったらイニシャルトルクの測定と調整をおこない、適切な状態を保つようにしましょう。

クルマの使用用途 オイルの交換頻度 分解整備
街乗り 走行距離3,000〜5,000kmごと 倉庫距離3万kmごと
競技 競技前後 適宜(最低年1回)

LSDの性能を使い切る使い方

機械式LSDの特徴は、高いロック率と動作特性が調整できる点です。

初期状態でも、車種に合わせて調整されてはいますが、機械式LSDの性能を使い切るには個々人の使い方に合わせたリセッティング作業が必要です。

機械式LSDの調整箇所は、おもにカム作用角・イニシャルトルク・クラッチ枚数の3箇所。動作特性を決めるのはカム作用角。

イニシャルトルクはLSDが効き出すタイミングを決め、クラッチの枚数によってもロック率が変わります。

なかには特殊な構造のLSDもありますが、多くの機械式LSDはこの3箇所を調整することで、走行環境や乗り方に合わせて動作特性が変えることができます。

豊富な取付実績やセッティングノウハウを持っている業者ほど、LSDのリセッティング作業にも柔軟に対応してもらえるため、LSDの管理でお世話になる業者選びは非常に重要です。

まとめ

多くの機械式LSDに共通する使い方を解説しました。機械式LSDを装着すると、タイヤのグリップ性能を使い切れるようになるため、速く走れるようになります。

またクルマの動きも劇的に変わります。

その代わり、独特の動作と維持管理の手間が増えることによってクルマが極端に乗りづらく感じられる場合があります。

大きな影響をもたらすぶん、使い方に気をつけたいポイントも多いのが機械式LSDの特徴です。

まずはLSDの基本的な使い方を知り、本当に機械式LSDが必要かどうかを吟味しましょう。維持管理にしっかりと手間をかけられると判断してから装着に踏み切ってください。