機械式LSDのデフオイルは専用品を! 選び方や交換時期についても
機械式LSDには専用オイルを使う必要があります。
FR車なら粘度が高く硬いLSD専用オイルを選べば問題ありませんが、FF車などはオイル選びを間違うと思わぬトラブルに発展します。
機械式LSD用オイルの選び方の注意点や交換時期などについて解説します。
機械式LSDには専用オイルを使おう
機械式LSDの動作中は非常に高温になるため、高い温度でもしっかりと潤滑ができる粘度が高いLSD専用オイルを使う必要があります。
特に機械式LSDを装着したFR車に低い粘度のギヤオイル(ギアオイル、ギヤーオイルとも)を使用すると、潤滑不良によってギヤにキズが入ったり、内部のクラッチ板が焼き付いてしまう恐れがあります。
SAE粘度でオイルの硬さを知ろう
ギヤオイルの硬さは、エンジンオイルなどと同じくSAE粘度によって判別でき、粘度の見方も同じです。
85W-140のオイル規格を例にすれば、「85W」が低温時の粘度、「140」が高温時の粘度を意味します。
これらの数値が大きいほど耐熱性の高いオイルと捉えて差し支えありません。
FR用ノーマルデフのオイルは75W-90などが用いられるのに対して、機械式LSDそ装着したFR車では85W-140のように非常に硬いオイルが用いられます。
API分類のGL規格にも注目
デフのギヤオイルを交換する際は、粘度の他にGL規格にも注意する必要があります。
GL規格とは、極小面積で接するギヤの摩耗低減や焼付きを防止するための添加剤である極圧剤の添加量などをGL-1〜GL-6までの規格で表したものです。デフオイルとして用いられるのはGL-4以上です。
ただしGL規格が高ければ高性能というものではありません。
極圧剤として用いられる硫黄や亜鉛、りんなどの化合物は、トランスミッション内のシンクロナイザーに用いられる銅や真鍮を腐食させます。
デフ単体のオイルとして使うFRなどでは問題になりませんが、トランスミッションオイルとデフオイルを兼ねるFFなどは極圧剤の添加量が故障の原因に繋がるため、極力自動車メーカーやLSDメーカーが指定するGL規格のギヤオイルを使用しましょう。
硬さでLSDの効きは変わる?
ビスカス式やヘリカル式、トルセン式などのLSDはオイルの粘度による変化はほとんどありませんが、機械式LSDの場合は、その他のLSDよりもオイルの粘度による影響を受けやすい特徴があります。
ただし、その変化は効き出すタイミングがわずかに変わる程度の違いでしかありません。
LSDの効き具合を大きく変えたい場合は、LSDを分解して再調整する必要があります。
LSDメーカーなどによって指定された粘度がある場合はそれを優先し、オイルの粘度変更はあくまで微調整と考えましょう。
粘度によってはチャタリング音が軽減される
機械式LSDの悩みの種のひとつが、チャタリングと呼ばれるバキバキ音。これはLSD内部のクラッチ板が、断続的に密着と剥離が繰り返されることで起こる異音です。
一般的にチャタリングはイニシャルトルクのかけすぎや、オイルの劣化による粘度低下時に起こりやすくなります。
硬いオイルほどチャタリング音は少なくなる傾向にある一方、柔らかく潤滑性能に優れたオイルでも軽減されるケースもあります。
なかには添加剤によって潤滑特性を調整することでチャタリングを抑える効果を謳うオイルもあります。
チャタリングによる音や振動が気になる方は、安全な粘度の範囲でオイル銘柄や粘度を変更してみるとよいでしょう。
クルマによって使うオイルは違う?
メーカーや車種、駆動方式によって最適な機械式LSD用オイルは異なります。とくにFFなどは適切なオイルを選ばなければ故障の原因になる場合があります。
駆動方式等 | 基本SAE粘度 | 基本GL規格 |
---|---|---|
FF・MR・4WDなどのトランスミッション/デフオイル | 75W-90 | GL-4 |
FR・4WDのリアデフオイル | 85W-140 | GL-5 |
FF車はGL規格に注意! 粘度は柔らかめを
トランスミッションとデフ一体になったトランスアクスルを採用するFFやMR、4WDの前輪などは、機械式LSDに交換したとしても、極端に硬いオイルや極圧剤の添加量が多いGL規格のギヤオイルを入れるのは厳禁です。
機械式LSDを装着したFFなどには、FRより柔らかい75W-90の粘度が用いられます。
トランスミッションに極端に硬いオイルを入れてしまうと、冷間時のシフト操作の不具合や、変速ギヤの潤滑が上手く行われず破損する恐れがあります。
また、前述したように変速機構に備わるシンクロナイザーの腐食を防ぐため、自動車メーカーでGL規格が指定されている場合があります。
デフとトランスミッションでは要求されるオイルの性質が違うため、トランスアクスルを採用するクルマはその中間的な特性のギヤオイルを選択しなくてはなりません。
FF車などはLSDメーカーなどで指定されているオイルを選ぶのが無難です。
FR車は硬めの85W-140が基本
デフが単体で存在しているFRや4WDのリアデフは内部構造が単純であるため、高いギヤ摩耗防止性を有するGL-5規格かつ、耐熱性に優れた固めのオイルが指定されています。
FRや4WDのデフには85W-140を基準として、好みに応じて粘度を調整しましょう。
装着している機械式LSDによっては、LSDメーカーによって使用オイルが指定されている場合があります。
OS技研のLSDで使用が推奨されるFR車用純正オイルは、耐久性向上とチャタリング音を防止を目的として80W-250のように非常に硬いオイルが用いられます。
鉱物油と化学合成油で違いはある?
エンジンオイルと同じく、ギヤオイルのベースオイルも鉱物油と化学合成油に分けられ、本格的な競技で使うなら耐熱性に優れ、劣化しにくい特性の化学合成油がおすすめです。
街乗りなら鉱物油でも問題はないでしょう。低頻度のサーキット走行と街乗りで併用する場合には、それらをブレンドした部分合成油をおすすめします。
オイルサプライヤーとして定評があるワコーズやスピードマスター、クスコなどでは競技用の化学合成油のほか、価格と性能のバランスが図られた部分合成油も販売しています。
ただし、部分合成油はメーカーごとに製法やブレンド割合よって特性が大きく異なるため、購入する前に適合する用途を確認しておきましょう。
ギヤオイルはシフトフィーリングやLSDの効きにも影響するため、一概に高価な化学合成油が最適とは言い切れません。
指定された粘度やGL規格を守ったうえで、車種や用途にもっとも適したオイルをみつけだしましょう。
機械式LSDのオイル交換頻度
発熱量や内部摩耗が過大な機械式LSDのオイル交換頻度は、FF・FRなど駆動方式を問わずノーマルデフのオイル交換よりも遥かに短い走行距離3,000〜5,000kmごとの交換が推奨されています。
オイルが劣化した状態で使用し続けると、クラッチ板の摩耗やイニシャルトルク低下などの性能低下を招くため、3,000kmを走行したら早めの交換をおすすめします。
サーキット走行やドリフト走行のような連続高負荷運転をした後は交換しておくのが無難でしょう。
オイルの劣化が進行しただけでも、LSDの効き出しが唐突になったり、チャタリング音がひどくなる症状が発生します。
正確なオイル交換時期やオイル銘柄による変化を見極めるためにも、普段の状態をよく覚えておくことも大切です。