はまってしまったものは仕方ない! スタック経験者が語る自力脱出ノウハウ

椅子やコップはスタックできた方が便利だけど

突然ですが皆さん、スタックしたことありますか? スタックとは英語(Stack)で「積み重ねる」という意味ですが(重ねられるコップや椅子のことをスタッキング、スタッカブルと言ったりしますね)、車の場合は「悪路などでタイヤがはまり、動けなくなること」を言います。

四輪駆動車専門の自動車雑誌編集者として働いてきた過去のあるワタクシ、今までのカーライフで何度となくスタックして参りました。いや〜、いろんな場所、いろんなケースでスタックしたなあ……と思わず遠い目をしてしまいます。

大学生のときに初めて買ったクロカン四駆で林道に行き、路肩から脱輪したのを手始めに、ある時はひとりぼっちで廃道にはまり、3時間も立ち往生。またある時は車がリアバンパーのみで立ち上がってしまい、ニッチもサッチも行かなくなってしまったこともありました。オーストラリアの砂浜で車体がすっかり砂に埋まってしまったときには、逞しいオーストラリア人の男性3人が人力で車を軽々と持ち上げてレスキュー。グローバルなスタックを経験してきました。

スタックではありませんが、急な登り坂の途中で横転して滑落、3回転ほどバク転しながら着地したこともあります。いずれのケースも怪我がなかったのは不幸中の幸いというべきでしょう。

今回はワタクシのそんな経験を踏まえて、スタックから効果的に脱出方法、手順を考察します!

スタック脱出の心得その1……状況を確認する

オフロードで車がスタックしてしまった時にまずすべきことは「車外に出て状況を確認する」ことです。なぜ車が動かないのか、原因を突き止めなければ何も始まりません。車内にいると意外に状況が分かりにくいので一旦、車外に出て地形と車をじっくり眺めます。同乗者がいる場合は、誰か一人が降りれば良いでしょう。

ただし崖側に脱輪している場合など、人が降りると車がバランスを崩してしまうケースもあるので慎重に判断してください。車が崖下に転落したり、落ちてきた車に人が挟まれたりするリスクもあります。

岩場
路面をよく観察するのがスタック脱出の第一歩

スタック脱出の心得その2……スタックするパターンは2種類しかない!

スタックはアクセルを踏んでも車が動かない、つまりタイヤが空転している状態にあります。極端なケースを除き(リアバンパーだけで立っちゃうような)、オフロードでスタックする原因は3パターンしかありません。「四輪スタック」と「亀の子スタック」、「対角線スタック」です。

崖に乗り上げているシーン
4WD車の場合、4輪のうち3輪がきちんと接地していればスタックすることはまずない

「四輪スタック」とは?

タイヤが四輪ともちゃんと接地しているのに、駆動力が伝わらないケースです。ツルツルの泥濘地や凍結路面等で起こりえます。その場に留まっていられることは少なく、大抵の場合は路面が傾斜している側に車が滑っていきます。壁などに接触し、動けなくなった時点でスタックというわけです。

泥濘地
ツルツルの路面で滑ってしまい、路肩に落ちて亀の子スタックするケースも

「亀の子スタック」とは?

盛り上がった場所に車が乗り上げ、腹下が接地してタイヤが浮いている状況です。親亀の甲羅の上に乗せた子亀のような姿であることから命名されました。モーグル地形などで起こりやすいスタックですが、路肩に脱輪してしまった場合もサスペンションアームなどが接地しているケースが多く、亀の子スタックの一種と考えられます。

岩場
岩場では凸にタイヤを乗り上げ、凹をまたぐのがオフロード走行の基本

「対角線スタック」とは?

駆動輪の二輪(FFの場合は前輪、FRの場合は後輪)のうち、どちらか片側が浮いているために起きるスタックです。四輪駆動車の場合は対角線上にあるタイヤ二輪が浮いているときのみ起きる現象であることから「対角線スタック」と呼ばれます。

「対角線スタック」の原因は、ディファレンシャルギア(以下デフ)の作用によるもの。デフとは車が駆動力をかけながらスムーズに曲がれるようにする機構で、“抵抗が小さい側の車輪をより多く、抵抗が大きい側の車輪をより少なく回す”という性質をもっています。タイヤが浮いてしまうと抵抗ゼロになるため、そちら側のタイヤだけしか回せなくなり、スタックしてしまう……というわけです。

スタック脱出の心得その3……スタックの状況ごとに脱出方法を考える

スタックの種類ごとに脱出方法を考えます。今回は他車に助けを求められない状況での自力脱出を前提とします。

「四輪スタック」の場合

実はこれが最も厄介なケースです。路面が極端に滑りやすい状況でしか起きないスタックであり、自力脱出が難しいためです。

同乗者がいるなら、車を外から押してもらいましょう。この方法が意外に効果的。いわばタイヤ以外の駆動力です。ドライバーがアクセルを踏むタイミングと息を合わせて車を押すのがコツです。

人力
スタックの種類を問わず、人力によるレスキューは効果的。同乗者に協力してもらおう

この方法でダメなら、次に試すのはタイヤのエア圧を落とす方法。タイヤの接地面積を増やすのが目的です。タイヤの空気はバルブのキャップを外し、中央にあるエアバルブを細い棒などで押すと抜けます。中途半端に空気を抜いてもほとんど効果はありません。指定空気圧が2.0kPa/kgf/cm²前後の場合は、1.0kPa/kgf/cm²程度まで落とすのが目安です。

ただし、エア圧を落とすとビード落ち(タイヤがホイールから外れてしまうこと)しやすくなるので、リカバリー後は極低速での走行を心掛け、速やかにガソリンスタンドなどで指定空気圧に戻します。

これで少しでも車が動いたなら、その慣性を使ってグリップの良い場所まで一気に移動します。アクセルを急に吹かすとまた空転してしまうので、路面状況を見ながらじんわりとアクセルペダルを踏むのがコツです。

「亀の子スタック」の場合

この場合は、腹下につかえている土などを人力でかき出す、もしくは車体をジャッキアップし、浮いているタイヤの下に岩などを詰める方法が最も効果的。タイヤが地面に付くまで、スコップなどで根気良く土木作業します。

泥濘地や砂地で深い轍にはまったなら、その状態から前進するのはほぼ不可能。タイヤの後ろ側に土木作業でスロープを作り、バックで脱出します。このとき、素早く前進と後退を繰り返しながら勢いをつけてあげると、脱出できる可能性はグンとアップ。ぜひ試してみましょう。

「亀の子スタック」の場合も、人力で車を押す方法は有効。上記の方法と組み合わせて脱出を図ります。

「対角線スタック」の場合

デフによってスタックしているので、その作用を止める、あるいは制限することで脱出できます。と言っても簡単ではありません。オフロード業界では昔から対角線スタックしたとき、サイドブレーキを適度に引きながらアクセルペダルを踏む、または駆動力がかかっている状態でブレーキをちょんちょん踏む「ブレーキタッピング」という方法が推奨されてきましたが、私が下手だからなのか、あまり上手くいった試しがありませんでした。

実はこのスタックでも、人海戦術が有効です。ひとつは浮いているタイヤに近い場所に大勢で乗り、車体を上下に揺すること。そんなバカな、と思うかもしれませんが、「モンキー」という立派なオフロードテクニックのひとつです。ただ鉄製バンパーやステップ、ロールケージなどを備える本格四駆でこそ有効な手段であって、掴まる場所が少ない現代の車では難しいかもしれません。

もうひとつの方法は浮いているタイヤの下に岩などを詰め、強制的に接地させる方法です。原理的には浮いているタイヤの空転を止めてあげれば、反対側のタイヤにも駆動力がかかります。毛布やカーマットを挟む方法が推奨されることもありますが、軽い物ではタイヤに巻き込まれてしまい、上手くいきません。大きめの岩がベストです!

砂地
砂地では亀の子スタックや対角線スタックしやすい

空転しているタイヤに抵抗を与えると、反対側のタイヤにトラクションがかかる……デフの仕組みを上手く利用したのが、現代の車に多く採用されているブレーキLSD(「アクティブトラクションコントロール」などメーカー固有の名称で呼ばれる)です。前述の「ブレーキタッピング」を自動で行ってくれるもの、と考えれば良いでしょう。

ただ、ブレーキLSDが役立つシチュエーションは限定的。平坦に近い場所では比較的有効ですが(そうした地形で対角線スタックすることは希)、登坂途中や岩を乗り越える途中のスタックで役立った経験はほとんどありません。またブレーキを使うだけに、長時間利用すると過熱して機能がオフになってしまうのも弱点です。

これらの方法を試してみて、どれもダメならロードサービスを呼ぶ、近くの車に救援を求めるなど、他車によるレスキューに頼るしかありません。ただし、安易にロープで牽いたりすると車にダメージが及ぶ可能性があります。レスキューの方法については、また別の機会に解説しましょう。

スタック脱出の心得その4……予め車に脱出道具を積んでおく

オフロードに出かけるなら、スコップなど以下の道具を用意しておくことをお勧めします。いずれもカー用品店や通販で手に入れることができます。

・スコップ(先が尖っている形状のもの)
・土木作業用のグローブ
・ジャッキ
・ハンディタイプのエアポンプ(タイヤに空気を入れるため)
・脱出用スロープ
・サンドラダー

スコップ
スコップを使うときは車を傷付けないように注意

スタックからの自力脱出に最強の武器

実は、対角線スタックからの自力脱出に極めて有効なアフターパーツがあります。それはLSD。デフの作用を摩擦により制限することで、そもそもスタックしにくい状況にしてくれるものです。また制限力が強力なので、対角線上のタイヤが完全に浮いた状態からの脱出でも効果を発揮。そのうえデフの機能が適度に活かされるため、グリップの良い舗装路の走行にも支障をきたしません。

同じような目的のパーツにデフの作用を完全に止めるデフロックがありますが、これは装着できる車種がジムニーやジープなどの本格クロカン四駆に限られます。またデフロックをオンにした状態では上手く曲がれないため、利用できるシーンも限定的です。

オフロードを走る機会が多いなら、LSDを装着しておいて決して損はないでしょう。事実、オフローダーの多くがOS技研のLSDを選んでいます。