雪で車が前にも後にも進まない……。そんな状況のとき、あなたならどうしますか? 雪に慣れているドライバーでなければ、対処方法が分からなくて立ち往生してしまうかもしれません。ロードサービスを呼ぶのはもちろん有効な手段ですが、大雪で渋滞している場合などは到着が遅れる可能性も……。

実はちょっとした工夫とテクニックで自力脱出できることがあります。今回は「雪でスタックしたときの対処法」を解説していきましょう。

スタックってどんな状態?

「スタック」とは、車がぬかるみや雪などにはまって、動けなくなった状態のこと。四駆でオフロード走行を趣味にする人にとっては日常茶飯事ですが、一般的なドライバーがスタックを経験することは希でしょう。

雪で車がスタックする原因は何でしょうか? ほとんどの場合、下記の3種類が原因です。

・雪が車のバンパー前後や腹下などにつっかえ、邪魔をしている
・駆動輪のどちらか一方が地面に接しておらず、タイヤが空転している
・タイヤは設地しているが、凍結路面で滑ってしまい前進できない

これらスタックの原因を取り除くことで、自力脱出することができます。

スタックからのパターン別脱出方法

それではスタックから脱出するプロセスを解説していきましょう。最初にすべきことは「スタックしている原因を見極める」です。車が前に進まない状態になっても運転席からは原因が分かりにくいので、一旦エンジンを停めてパーキングブレーキをかけ、車外に出て状況を確かめます。

凍結した路面で転倒しないよう注意してください。スタックした車を外から見ると、前述した状態のどちらかになっているはずです。それでは脱出作業開始!

雪が車のバンパー前後や腹下などにつっかえている場合

まずエンジンを再始動してバックできないか試してみます。前進はできないけどバックならできる、という状況は意外に多いもの。もしもバックできたなら目一杯後ろまで下がり、スタックした場所を避けて通過します。

完全に脱出できなくても諦めるのは早計。車がほんの少しでも動くようなら前進とバックを素早く繰り返し、“揺りかご”のように車を動かすことで脱出できることがあります。このテクニックを“もみ出し”と言います。

それでも脱出できないようなら、邪魔している雪を取り除くのが最も手っ取り早く脱出できる方法。バンパー前後や腹下の雪をスコップなどで掻き出します。スコップで車を傷付けないように注意して作業しましょう。

スコップがない場合は大変ですが、手で掻き出すだけでも効果があります。雪を十分に取り除いた後でエンジンをかけ、アクセルをじんわりと踏んで脱出を試みます。

駆動輪が地面に接していない場合

この場合もやはり、土木作業が効果的。空転しているタイヤの下に雪を詰め込み、脱出したい方向にスロープを作ります。詰め込んだ雪を足でよく踏み固めるのがコツです。

深いくぼみにタイヤが落ちて進めない状況のときには、「空転しているタイヤ近くの座席に同乗者を座らせる」だけで脱出できることがあります。荷重をかけることでタイヤを強制的に設地させるのです。意外なほど効果があるので、スタックしたら是非一度試してみましょう。

タイヤは設地しているが、凍結路面で滑ってしまい前進できない場合

このケースはスタックの中でも、最も脱出難度の高い状況と言えるかもしれません。雪国の場合は、近くに脱出用の砂が設置されていないか確認しましょう。ある場合には路面に砂を撒き、脱出を試みます。

砂がない場合、砂を撒いても脱出できない場合は、タイヤのバルブをペン先などで押し、空気を抜いてみるのも一案(目安はタイヤのサイドウォールが少したわむ程度)です。タイヤのトレッド面を変形させ、路面に密着させるのです。ただし脱出できたら、ガソリンスタンドなどでできるだけ早くタイヤの空気圧を規定圧に戻してください。空気が少ない状態で舗装路を走ることは大変危険です。

よく「毛布やカーマットなどを空転しているタイヤの下に挟む」方法も推奨されていますが、個人的な経験ではこの方法で脱出できたことがありません。空転しているタイヤに毛布などが蹴り出されてしまうケースがほとんどです。タイヤに巻き込んでしまい、さらなるトラブルにつながるケースも……。スタック脱出専用のラダーなどがある場合は別ですが、毛布やカーマットを使う方法はあまりお勧めできません。

それでも脱出できなければ牽引

上記の方法で成功しなかったなら、もはや自力脱出は不可能と判断せざるを得ないでしょう。悪あがきすると路面を掘り返し、かえって状況が悪化してしまうこともあります。

ロードサービスに連絡する、あるいは牽引ロープを持っている人を探して、牽引してもらいます。牽引するときのポイントは、ロープが車を引きたい方向に対してできるだけ真っ直ぐになるようにすること、ここならもう大丈夫、という場所まで牽いてから停車すること、牽引車にはできるだけスタック車よりも重い車両を選ぶことです。

“クラクションを一回鳴らしたら牽引スタート”“クラクションを2回鳴らしたらストップ”など、牽引車とスタック車の間で予め合図を決めておきましょう。

車はなぜスタックするの?

雪の上でも泥濘地でも、スタックしたときに“駆動輪すべて(2WDなら前後どちらかの両輪、4WDなら全輪)が空転している”という状況は極希。多くの場合、左右輪のどちらかだけが空転します。もう一方の車輪は接地しているのに、なぜ駆動力を伝えられないのでしょうか?

その答えは、“左右輪の間にはデファレンシャルギアがあるから”です。デファレンシャルギアとはデフとも呼ばれ、負荷に応じて左右の車輪に回転差を生み出す機械のこと。デフがなければ、左右輪で異なる軌跡を通るカーブをスムーズに曲がることはできません。回転差を生み出すデフの働きを“差動”と言います。

しかし雪道や泥濘地ではデフの差動が災いし、地面から浮いている片方の車輪だけを回転させてしまうことがあります。実はこれがスタックの主な原因です。

デフの差動がかえって邪魔になるのは、雪道や悪路だけではありません。ハイスピードでのコーナリング時などでもタイヤの接地圧が低くなり、駆動力を正しく伝えられなくなってしまうことがあります。駆動力を伝えられないと、車を正確にコントロールすることはできません。

そのため、デフの差動を制限する装置が発明されました。それがLSD(Limited Slip Differential)です。LSDはデフの差動を適度に抑えることでスタックするのを防いだり、コーナリング時の車両コントロール性を良くしたりすることができます。

 

LSDにはメーカー純正で新車から組み込まれているものと、社外品として後付けできるものがあり、オフロード走行やスポーツ走行を趣味にする人に愛用されてきました。

最近の車にはデフ本体に内蔵される機械式LSDではなく、左右独立してブレーキを自動的に利かせることで差動を打ち消す“ブレーキLSD”が最初から装備されています。ただ、ブレーキLSDの効果は限定的であり、長時間作動させるとブレーキパッドが熱ダレしやすいというウィークポイントも……。あくまで危険回避を目的とした装置であると理解すべきでしょう。

まとめ

今回紹介した脱出方法を知っていれば、スタックしても冷静に対処できるはず。スタック脱出で最優先すべきことは、人と車の安全を確保し、大切な愛車を傷付けないことです。必要な知識とテクニックを身に付けて、この時期にしか体験できないスノードライブをより一層楽しみましょう!